2000年7月27日・群馬県営敷島球場(前橋)。夏の甲子園地方大会は雨まじりの中、大団円を迎えていた。
バッターボックスには前橋工の主砲・狩野恵輔。これまでの前橋工の快進撃はこの狩野が原動力だった。その年の地方大会には4本の本塁打を放っていたほど、捕手でありながら狩野のパワーは桁違いである。
しかし、決勝のその日は狩野ばかりか全員がある豪腕投手の力投で零封に抑えられていた。狩野に託された願いは大逆転の狼煙か、それとも零封御免の意地の一発か…雨上がりの曖昧な空を切り裂くように、豪腕投手が力ある球を放った…狩野のバットが空を切った!その瞬間、猛スピードで頂点を目指した前橋工の夏が終わりを告げた…。
バッターボックスで落胆する狩野の目の前で勝利の咆哮をあげていたのは、前年の優勝校・桐生第一(当時の主砲は現東洋大主将・大廣翔治)。前年は群馬制覇ばかりか県勢初の全国制覇という快挙まで成し遂げた、とてつもないディフェンディングチャンピオンだ。そして歓喜の輪の中に埋もれていた豪腕投手…それがこのコラムの主人公である。
豪腕投手の名は、一場靖弘。前年は全国制覇の原動力となったエース・正田樹(現北海道日本ハム)の二番手投手として活躍したこともある(一場がリリーフした仙台育英戦で投げ合った真山龍は現西武)。
冒頭の戦いに勝ち2年連続で群馬代表を勝ち取った桐生第一は、いきなり鳥羽(旧名・京都二中)に大差負け。それでも一場が放ったMax 146km/hの速球は多くのプロ野球スカウトを唸らせた。
このままプロ入りかと思いきや、桐生第一・福田治男監督のすすめで明治大学に進学。順調にステップを踏み、2年の秋には早くもエースという大役を任された。1年先輩に岡本篤志(三重海星卒・現西武)という好投手がいながらの大抜擢ぶりである。そこから一場の注目度は日に日に高まりはじめた。
3年の秋。一場はかつてない金字塔を打ち立てた。Max154km/hの神宮学生最速記録。これを機に、一場の周囲がますます騒がしくなってきた。
年が明けて、プロ球団のスカウトたちが血眼になって一場獲得を競い始めたが、一場はそういった騒音を尻目に春のリーグ戦107奪三振をマークし、初のベストナイン獲得。チームの優勝に大いに貢献した。
現在、春季版明治神宮大会に当たる全日本大学選手権が行われている。大学日本一という次なる目標に向けて一場が豪球を唸らせている。しかし、スカウトの関心はその後だ。大会後、一場はこれからの道を自分の言葉で告げるそうだが、果たして神宮最速の称号を得た彼はどんな未来を選択するのだろうか。一場を狙っているのは読売・阪神・横浜の3球団。もし阪神を選ぶなら4年前に雨中の前橋で対峙した狩野が待っていることだろう。だが、一場のレジェンドはまだ終結していない。秋のリーグ戦が残っていることを忘れてはならない。次はどんな活躍で世間を驚愕させるのか…
運命のドラフトまであと5ケ月余り。これからも一場から目が離せなくなりそうだ。
by たかなお
Sweet Revenge